『ある夫婦の会話』 「妊娠3ヶ月だそうです」 「でも、子供を産むのは無理だろうと言われました」 「もし産めたとしても…私も、子供も、命の保障は出来ないと」 女性は相手を真っ直ぐに見つめ 医者から告げられた内容を隠すことなく伝える。 やわらかな金の髪、透ける様な白い肌、華奢な腕、 ベットの上に身を起こすその姿はどこまでも儚いのに 相手を見据える紅い瞳はとても強い。 「………そう、か」 黙って話を聞いていた男性が溜息と共にそれだけを言う。 突然聞かされた話の衝撃が大きくて、上手く言葉が見つからない。 明後日の方向を見てガシガシと髪を掻き毟り暫く考え込んだ後、 ようやく妻である女性と向き合う。 「お前がどうしたいか決めてるかは知らねぇが、一言、言わせてくれ」 「嫌です」 「……一言だけなんだが」 「私が先に言いますから、その後で一言でも十言でもどうぞ」 素気無く夫の意見を却下して、女性は話し始める。 「医者にはあの様に言われましたが、 私は子供を諦めるつもりは全くありません。 誰が何を言おうと、これは譲れません。 もちろん愛しい我が子を抱かずに逝く気もありません。 どちらか片方を諦めるなんてしたくないんです。 あなたと出会えて、一緒になれて、とても幸せです。 でも、今以上の幸せがあるのなら、それを手に入れたい。 私は…我侭ですから」 そう言って、女性は綺麗に微笑んだ。 ――ぽす。 夫が音を立てて、彼女のベットに突っ伏する。 「なんだよ、俺が言いたい事全部言いやがって…」 「ふふっ、だから先に言いたかったんです」 「チクショウ…」 初夏の優しい日差しに包まれた日。 これは、 この星に世界の希望とされる青年がやってくるよりも、 手を取り合っていた国同士で戦争が起こるよりも昔の話。 |